新建築社のブログ

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LivingTechに行ってきました

9月20日に半蔵門にあるLIFULL本社で行われたカンファレンスイベント「LivingTech」に参加してきました.

メインテーマは「暮らしをテクノロジーで変える」

http://livingtech.strikingly.com/

VRからFinTechの技術,Weworkにライゾマティクスなど不動産,金融,テクノロジー業界の人たちが集結した興味深いイベントでした.

全セッションを聴講することはできませんでしたが,聴講したものを簡単にレポートします.

 

空間の作り手とユーザーのギャップを埋めるVRの可能性
─芳賀洋行(InstaVR)
─沼倉正吾(DVERSE)
─中村真広(ツクルバ)

昨年あたりから話題になっているVRをテーマにしたセッション.

建築設計や不動産サービスなど建築・不動産分野で活躍するツクルバの中村真広氏をモデレータに,VRのサービスを提供しているInstaVRの芳賀洋行氏とDVERSEの沼倉正吾氏が登壇.

 

ツクルバ↓

tsukuruba.com


InstaVR↓

jp.instavr.co


DVERSE↓

dverse.me

 

コミュニケーションの変革としてのVR

まずは,イントロダクションとして中村氏のスライドトークから.
建築の設計プロセスではクライアントとのイメージ共有のためのコミュニケーションがかなり求められる.

これまで建築家は図面や模型,スケッチ,CGパースなどありとあらゆるツールを用いてクライアントとのイメージ共有を行ってきたが,やはりどうしてもズレが起きてしまう,と設計を進める時の課題に感じている部分について語った.
そしてその時に,臨場感や感覚的なニュアンスを伝えるツールとしてVRが活躍するのではないか?とVRへの期待を語る.
実際のプロジェクトでのVRの使用例についても触れ,VRへの将来性の具体的な感触と期待を語った.

中村氏のVRへの期待への応答として沼倉氏の話が興味深いものだった.

建築実務者向けのVRプラットフォームを提供する沼倉氏は自身の会社のライバルはSkypeなどのコミュニケーションサービスやPowerPointなどの汎用性の高いプレゼンテーションツールであると語る.

つまりVRはただのプレゼンテーションツールではなくコミュニケーションを円滑にする「会議室のようなもの」だということだ.
未来の可能性としてVRだけを使うのではなく,VR空間をプラットフォームとし,さまざまなツールと組み合わせていくことで伝えにくいイメージの共有や遠隔の会議などあらゆる面でこれまでのコミュニケーションコストを下げられるのだ.

 

ラフさが重要

これまでのプレゼンテーションやコミュニケーションでは,十分に意思の共有をするために,伝える側の準備がかなり必要だった.

それでも意思の共有は十分に行うのは難しい.しかし,VRはより感覚的なものなので,伝えられる側が「感じる」ことが求められる.

そのことにより伝える側と伝えられる側の情報の非対称性はある程度解消されるはずだ.


実際,中村氏が手がけているプロジェクトでVRを導入したところクライアント側から見たいという要望が増えたそうだ.中村氏はこうした「ラフなコミュニケーションの実現」こそVRのもたらす重要なポイントではないかと語る.
「ラフなコミュニケーション」を取れるようになることでクライアントと設計者の意思を共有したより密度の高い設計を行えるようになる.そしてその「ラフなコミュニケーション」を実現するひとつのツールとしてVRが大いに役立つ可能性があるのだ.

 

贅沢の対象がスライドされる

VRによって時間や空間の制約が解放されるようになると,旅行や教育などで利用される機会が多くなるだろう.
観光のひとつのあり方として格安の値段でリゾートや僻地の様子を体験できるようになるかもしれない.

実際,雪が降らない東南アジアの人たちが雪を体験するためにVRを利用しているという例があるという.
このように仮想空間上での体験の質が向上することで,新しい体験のあり方が生まれる.すると逆に,自らの身体をその場に運ぶ(移動する)ことの価値が上がるのではないかということが話された.

つまり,(自らの身体を使って)旅をすること自体が一種の「贅沢」として認識される世界になるのかもしれないのだ.

テクノロジーが進化することによって人間が自らの身体を再認識する,VRはそんな機会の創造のパラダイムシフトとしても機能するのかもしれない.

 

視覚は人間の感覚のほとんどを占める

VRは主に視覚と聴覚によって構成されているが,その他の感覚へのアプローチはあるのかという質問が会場から出た.
これに対して,「そもそも人間の感覚にとっては視覚は大きな割合を占めるものであり,視覚を網羅するだけでもかなりリアルなVR体験ができる」とのこと.しかし,建築の分野では建材や内装の手触りも体験として重要になってくる.

そのため,さらにリッチな体験を目指すために現在「触覚」の再現を研究していると沼倉氏は話す.「触覚」は振動と温度で再現が可能であり,この技術が確立されればVRはより意思共有のための強力なツールとなるだろう.

 

VRはまだまだ「ファミコン」にも達していない

以上,VRのさまざまな可能性と期待が語られたが,一方でVRは未だ「ファミコン」以前の技術でしかない.
ある技術が登場してから成熟するまで一般的に20年程度必要だと言われている.今や誰もが持つようになったスマートフォンのような携帯端末も20年前はちょっとしたバッグ程の大きさの肩がけのもので,持つ人も限られていた.

そして,ほとんど実写のようなグラフィックを実現できるようになったPS4などの据え置きゲーム端末でさえも20年前にはドットでしかグラフィックを表現できないファミリーコンピュータしかなかったのだ(驚くべきことに1988年に発売された『ドラゴンクエストIII そして伝説へ…』は容量が256キロバイトしかなかったのだ).
だからこそ,VRは私たちが予期せぬ方向も含めてまだまだ進化の可能性を秘めている技術なのだ.
 

 

人びとの価値観を変える場のつくりかた(仮)
─林厚見(SPEAC,東京R不動産
─斎藤精一(ライゾマティクス)
─若林恵(WIRED)
─内山博文(u.company)

タイトルからは外れて,日本の現在の都市を取り巻く状況について語られた.

人口減少や住宅価値の下落,中小ビルの利活用についてなど今後直面していく状況に対して未来をどう考えるか,イノベーションはどう起きるのかなど話題は多岐に渡った.

 

SPEAC,東京R不動産

www.realtokyoestate.co.jp


ライゾマティクス↓

rhizomatiks.com


WIRED↓

wired.jp


内山博文↓

www.wantedly.com

 

参考URL:
エストニアは“なぜ”IT先進国になったのか↓

farsite.hatenablog.com


■ついにはじまる、グーグル「Sidewalk Labs」の都市革命↓

wired.jp

 

「未来」は予測できない・語れない

まずこの大きな話に対して先陣を切ったのはWIREDの若林氏.
若林氏はきっぱりと未来は予測できないものだと語る.数十年後の予想図など,誰も描けないし,描く意味もないのではないか?
それに応答して斎藤氏はこう語る.
Googleで「再開発」と検索すると,似たような鳥瞰パースがずらっと出てくる.

再開発 - Google 検索
どれも同じような計画だというのも問題だと思うが,街を鳥瞰視点で体験する人がいないのに,なぜこの視点でイメージが描かれるのか?

それが一番の疑問である.本来は住民視点のアイレベルのイメージが前面に出るべきであるはずなのに.
このことと「未来」を考えることも同じで,「誰のため,なんのための未来なのか?」.こうしたことが考えられない限りは「未来」を予測・語ることに意味はないのではないか?
それよりも「明日」のことを考えたいと斎藤氏は話した.

 

国が後退して都市が前進する

一方でこれからの時代は国の存在価値が下がって,都市の価値が上がっていくということが考えられる.
その時には「価値基準の共有」が重要になってくると林氏は話す.
なぜなら,都市のあり方を決めていくのは「制度」がかなり影響力を持っていて,その制度はある価値観の共有を持っていないと決定しきることができないからだ.
現状では,その制度設計の分野にクリエイティブの思考は入ってきていない.

ここにどう介入していくかという将来的な課題としてひとつあるのだという.その時にIT先進国として国家的に取り組むエストニアの例などは参考になるかもしれない.

farsite.hatenablog.com


その話題に応答し,斎藤氏はバルセロナの建築家数人と話したことがあるが,そのキャリアのあり方が面白かったと語る.

なぜなら彼らは一度市役所に勤めてから建築家としてのキャリアを始めているからだ.バルセロナでは法律の面から思考ができないと話にならないという背景があるらしい.

blog.archiphoto.info

 

blog.archiphoto.info


たとえば,シェアオフィスをつくったとしてもメンターがいてルールがきちんと定まってないと上手く使われない.

国が後退して都市が前進する時,制度やルールの存在が近くなるはずだ.その時にそれらについてどう考えるのが重要なのだろう.

 

イノベーションはどのように醸成していくのか

イノベーションを「新しい状況が生まれる世界観」だとすると国から都市に比重が大きくなっていくときと同様に制度やルールが重要になってくる.

その時に「価値観」として日本人の気質にイノベーションが合うなのかなども問題になってくるだろう.
イノベーションの1例として,Googleが「SideWalk Labs」を始め,テクノロジーによって都市を変えようとしている.

wired.jp


実際にはまだ成果は出てないが,チームとしてはものすごいチームになっていると語る斎藤氏.こうしたデジタル技術のarchitectureの規制は将来的には法律にも絡んでくるだろう.
林氏はこうしたテクノロジーでの実践に触れつつ「政治にもAIを入れて早く最適化して欲しい,そしたら最適化なんて退屈じゃんって気付くだろうし(笑)」と話す.
この発言からはGoogleの例のようにさまざまな試行が増えること(それをできる土壌を整える)でフィードバックループを回転させていくことがイノベーションには重要なのではないかということが伺い知れる.

 

では,デジタルは何をもたらすのだろうか?
若林氏はデジタルによって個人事業主(スモールビジネス)が増えていくのが良いのではないかと話す.

スタバのチェーン店が増えるより,個人経営のコーヒーショップが増えた方が街に多様性が生まれる.デジタル技術は新しいことを始めるハードルを下げる(例えば,出店場所を探すのもウェブで手軽に行えるし,お店のアピールにはSNSが使える,「リブライズ」のようなサービスを使えば多機能化も可能だ).

デジタルによって選択肢が増え,新しいことを始める自由が増大しているのだ.


もしかしたらVRのような技術がどこでもドア的なものになり,本質的なリモートワーク(テレワーク)ができるようになるかもしれない.そうなると職業選択の自由もより広がる.また,住むところと働くところの意味合いも変わるかもしれないし,「移動」の価値も変わるかもしれない(セッション1と繋がった!).
イノベーションの土壌はデジタルを利用することやルールを考えることで,「どれだけ自由を担保できる状況を作り出すか」が重要なのではないかと感じた.

 

万人の幸せなんてものは存在しない

最後に会場からテクノロジーを活用して生活や暮らしを豊かにしていくにあたり,どういう幸せを求めていくのがいいのかという質問があがった.
若林:人間は幸せになるのが本当にいいのか自体が疑問.幸福のあり方は人それぞれ.それを社会全体で求めようとすること自体を見直した方がいいのではないか?
斎藤:その価値基準をカスタマイズしていけるような仕組みがいいのではないか.今でもたまには電波0の状態になりたい時がある.どの局面にも対応できる柔軟な思考が必要だと思う.
林:選択自由度の向上が重要.人間はやらなければならないことが無くなっていく方に向かっていくのが正常だと思う.人間は暇になった時に創作などを行う.そこからイノベーションが生まれていくかもしれない.

 

LivingTechの価値と未来
─井上高志(LIFULL)─内山博文(u.company)
─上野純平(リノベる)─中村真広(ツクルバ)
佐藤純一(SuMiKa)─山下智弘(リノベる)
─重松大輔(スペースマーケット)─伊藤嘉盛(イタンジ)

全体のセッションを通して感じられたこと,「LivingTech」のこれからについて

LIFULL↓

lifull.com


リノベる↓

www.renoveru.jp


SuMiKa↓

sumika.me


スペースマーケット↓

spacemarket.com


イタンジ↓

www.itandi.co.jp

 

参考URL:
WeWorkが描く新しい不動産のかたち

3dcel.com

 

水平カンファレンスからクロスカンファレンスへ

発起人の上野氏は,テック業界では水平ごと(分野ごと)のカンファレンスは無数にある.ただ異分野の知識や技術をクロスさせるカンファレンスは存在していなかった.今回のイベントでは不動産,VR,金融,建築などさまざまな分野の人たちが集まった.このコミュニティを醸成して,第2回,第3回とステップアップしていきたいと語った.

 

ユーザーと作り手の摩擦係数を0にする

セッション1でVRのセッションのモデレータを務めた中村氏,コミュニケーションコストを下げるという視点でVRなどのテクノロジーの価値を再確認したことを語った.セッション3で登場した秋吉浩気氏の「VUILD」 

VUILD
のプロジェクトにも触れ,ユーザーと作り手が持つ情報や知識などの非対称性をなくすことが重要だと語る.

また,不動産などの分野でも従来は資金繰りなどで購入を諦める人もいたが,それらもフィンテックなどの技術によるフィナンシャルプランニングが実現すればよりスムーズになるのではないかとさまざまなテクノロジーへの期待を語った.

 

コミュニティをどうつくっていくか

上野氏は,Weworkが建物の3Dスキャンデータを取り,スピーディな事業を可能にし,同時に独自のSNSを持ちシェアオフィス内のコミュニティ創出にも寄与していることに触れる.

不動産業界ではテクノロジーへの信用度が低い人が多い.特にインターネット・テクノロジーになると建築分野でも壁をつくる人が多い.そういった人たちに価値を広めていくのにどうすればいいのか,Weworkのようなコミュニティづくりへの実践は大いに参考になると語った.

 

最後,各セッションの振り返りを行い,今後も継続的に続けていきたいと上野氏は語り,閉会した.

 

感想

上野氏はテック業界では水平のカンファレンスは無数にあるが異分野と交流する垂直のカンファレンスはないと話した.しかし,建築業界ではそもそも水平のカンファレンス的なものですら数少ない.

今回参加してみて分かったのは新しい技術を利用しながら現場で動いている実践者たちの話を聞くということはとても重要だという素朴な事実だ.

例えば,VRと言えば現在ではプレゼンテーションツールの1方向だとして捉えられがちだが,沼倉氏が語ったようにskypeなどのコミュニケーションツールに取ってかわるかもしれない(少し前まではあまり見かけなかったskype会議なんてものが浸透し始めているので,skypeはコミュニケーションのひとつのあり方を変えたと言えるだろう).

設計にしろなんにしろあらゆることはコミュニケーションから始まる.コミュニケーションのあり方が変わるということはそれに関わるもの全てが変わりうる可能性があるということだ.

VRがそれだけ大きなインパクトを秘めたものだということは本カンファレンスに参加したからこそ肌感として分かった.こうしたことは実際につくりながら思考している沼倉氏の言葉だからこそ説得力を持つのだろう.

残念ながら今回は3つのセッションにしか参加できなかったが,FinTechやWeWorkなどそれらの試みがもたらすものも実際に体験してみないと分からないのではないかと感じた.

おそらくこうした事実や知見は実践してみない限り蓄積されていかない.重要なことは,実践し,得た知見をフィードバックに回していくということだ.

この「LivingTech」というイベントはそうした知見の蓄積と共有を異分野間で伝搬していく良いきっかけになるのではないかと感じた.

 

【追記:10/8】

UniteでDVERSEのプレゼンテーション資料が公開されていました.

 

 

執筆:fkd